make no statement

音楽や映画、本などの感想や、日々思うことなどをゆるく。

底流に流れる「不安」

sassin012005-01-11



価値観と言うのは、その時代によって多様化するもので、不変(普遍)なものなどごくわずかしかないように思える。

僕は中学生になった頃、バブルがはじけて一気に世の中「不景気」と言い出した。90年代初頭の話。それからはメディアに踊る語句は暗いイメージのものばかり目立った。「リストラ」「不良債権」「就職難」とかね。"就職戦線異状なし"から180度"就職戦線異常あり"な世の中になった。

日本人は、卑屈になったのか、そうした話題が目立っていなかっただけなのか、90年代以降凶悪的なイメージのする事件・事象が増えた(と言うよりメディアを通して目に付く機会が増えた)。

このバブルがはじけた90年代前半から日本人は掴み所の無い『不安』に苛まれているのではないか。と僕は思っている。不安は阪神大震災やオウム諸事件によってさらに拡大・拡散された。

反面、人々は安心が欲しいからこそ、過剰に徹底的に『不安』を攻撃する。オウムにしろ北朝鮮にしろ。そして彼・彼女らもまた『不安』を取り除きたい、『安心』を求めたい、という本能で数々の事件を起こしてしまっているというのが皮肉なことだ。


さて、2004年。
『負け犬の遠吠え』という書がベストセラーとなった。詳細は以下。


『負け犬の遠吠え』酒井順子
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/makeinu/

負け犬とは……
狭義には、未婚、子ナシ、三十代以上の女性のことを示します。この中で、最も重要視されるのは「現在、結婚していない」という条件ですので、離婚して今は独身という人も、もちろん負け犬。二十代だけどバリバリ負け犬体質とか、結婚経験の無いシングルマザーといった立場の女性も、広義では負け犬に入ります。
つまりまぁ、いわゆる普通の家庭というものを築いていない人を、負け犬と呼ぶわけです。 (「本書を読まれる前に」より抜粋)

本書は"負け犬"とされる、30歳以上の女性達に居場所を与えてあげた新しい価値観を生み出した書だと思う。『未婚』『子ナシ』『30代以上』の女性は、(独特な価値観を持ち合わせていない限り)確実に『不安』や『焦り』を感じ得ずにはいられない。

そんな彼女達を自虐的に"負け犬"という愛称の価値を与えてあげて、『安心』を与えるワクを作ってあげた。

実に現代日本を象徴している書。


ちなみに本書の装丁は佐藤可士和というところが意外や意外。